第五章 塩も過ぎれば毒になる 511

第一節 塩も過ぎれば毒になるか  

週刊誌の健康コーナーやテレビの健康番組などに登場する医者は「塩を摂りすぎると高血圧になる」とよく言ったものです
  高血圧や心臓病の原因は塩が真犯人だと断定していたわけですが、最近は犯人である可能性があるという程度までに変わってきました
  高血圧や心臓病などの原因として塩の摂取以外に、加齢による血管の老化、肥満、タバコ、飲酒、ストレス、過労、運動不足などが危険因子として挙げられ、遺伝関与説まで出てきています
  しかし大量に塩を摂取すると癌になる可能性があるという、新たな塩の疑惑も出てきています。でも塩との因果関係ははっきりと分かっていません


   塩の摂取量は体調や食習慣や生活環境、また人種や年齢などによっていろいろ変わるものです
  例えば激しい運動をしたあとや重労働をした時、塩は汗と一緒に排出されますので、多少食べ物の味付けが濃くても
(塩辛くても)、何も抵抗もなく食べることが出来ます。これは身体が自然に塩を要求しているのでしょう


   エネルギー革命前の石炭は黒いダイヤとも呼ばれ、産業のエネルギー源として重要な位置にありました
  外国の炭田の中には、露天掘りによって石炭を掘る炭田もありますが、日本の炭田は地中奥深くにありました。そこで働く鉱員たちは地熱や重労働のために大量の汗をかきます。そのため作業場で塩が配給されたり、持ち込んだりして、作業の合間に舐める人が多くいたようです
  そのときの塩の味はどんな珍味よりも、素晴らしい味がしたと言われています。また炭鉱坑内での作業が終わり風呂を浴び、食事のときに出された塩辛い漬物も、最高の味がしたとも言われています
 
  これは生理的に身体が塩を要求しているわけで、今でも製鉄所やガラス工場の溶解炉近辺で働く人達には、会社が固形の塩を配ったり、ポカリスエットのような塩分などが含まれた飲み物を提供したりしています

この頃の漬物の塩分濃度は普通5%ほど《最近は3.5%》、炭鉱での食堂での漬物は8%近くあったとも言われています



   信州、東北、北海道などでは、塩蔵品や漬物作りなどが大変盛んな地域です。必然的に塩をたくさん使うために摂取量が多い地域です
  塩の摂取量と高血圧との関係を調べたアメリカ人のダール博士
 は「秋田県は食塩摂取量が多く、高血圧患者が多い」と学会で発表したことがあります
  その後の日本の雑誌や新聞の健康に関する記事には「秋田の人は、大豆と麹を使った味噌汁を朝、昼、晩にがぶ飲みし、がっこと呼ばれる野菜の塩漬けを食事や御茶請けに出して馬鹿食いをする。魚は塩魚しか食べないし、また調味料は普通の醤油より塩分の濃い『しょっつる』を使う
  この様な食生活をしていれば塩を大量に摂取することになり、高血圧になるのが当たり前である」と乱暴な論調の新聞や雑誌の記事をよく目にしたものでした


   しかし塩が高血圧や心臓病の原因だと長年言われていましたが、この結論に反対する医学者の論文が多数発表されるようになりました
  そのほとんどが塩と高血圧、塩と心臓病との特別な因果関係がはっきりしていないというものでした

  例えば次のページの上の図は、塩と血圧の関係などを調査するために田中平三博士が実施した、
32カ国一万人の疫学調査です
  インターソルトスタディと呼ばれており、この結果から低食塩生活をしている国を除けば、塩の摂取と高血圧との関係はあまりないと言われています
  世界的な高血圧の権威であった名古屋市立大学教授の青木久三医学博士は「減塩で血圧が下がる人は
100人の内二~三人であり、それ以外の人は塩と直接関係がない高血圧」と論じていました。先生は高血圧患者を含めて日本国民の大多数は、減塩は意味のないことだと結論づけていました
  博士は「ミネラルやビタミンの欠乏は特定の病気になるが、塩の欠乏は死に繋がる」と過度の減塩に注意勧告をしていたのです


  先ほどの秋田県の話ではないですが、高血圧の原因として塩の摂りすぎもあるでしょうが、それ以外に遺伝的なもの、冬の寒さ、また雪の中に閉じこめられているストレス、酒、タバコなどいろいろな要因が考えられます

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