第四章 自然塩 正体見たり 不純物  412

    また外国の有名な製塩地である、ゲランドや地中海などの名前が付けられた輸入塩も多く見られたのです
  それだけではありません、私達にとっては耳慣れない
 海洋深層水塩、天日塩、噴霧製塩、常温製法塩などの塩種や製法がパッケージに記載されたものもありました
  さらにこれらの塩のパッケージを注意して見ますと「自然塩とか天然塩」とか、そして「ミネラルが豊富」とか「ミネラルバランスに優れている」とかが書かれていた塩製品がほとんどだったのです
  中には「ミネラル豊富」を際立たせるために、
 JT(塩事業センター )食塩と自社の自然塩の成分分析表の両方を記載した塩製品も珍しくありませんでした


 スーパーやデパートがこのように塩に力を入れだしたのは、塩の自由化により塩の市場規模が1200億円とも1500億円とも言われるようになったからでした
  これは今まで塩の販売単価が
100円前後しかなかったものが、専売制が終わり食塩が自然塩に取って代わると、単価が安いものでも食塩の数倍、高いものでは数十倍も値段がするからでした。利益も32円しか無かったものが、数倍から数十倍以上にも大きく増え、スーパーやデパートなどは塩でも充分の利益を確保出来るようになったからです
  また新興の製塩メーカーなどは、デパートや大手スーパーに納入することにより自社ブランドの価値が高まるために、多額のバックマージンを払ってまで納入を競いあったとも言われています

 バックマージン・・・メーカーが、スーパーなどに卸価格を特別に下げ、差額をスーパーなどに払い戻すこと

 専売制の下では「塩は生活するために大切な物質である」という認識の下での、塩の専売制が維持されてきました
  しかし政府が聖域なしの行政改革を推しすすめることを決めたために、財務省が塩の専売制廃止を答申、そして閣議で塩の自由化を平成十四年度からと正式に決定したのでした
  新聞各社はこぞって「塩の自由化は、塩の製造・加工・輸入・販売が原則自由になり、いろいろな種類の塩が出回り、消費者は自分の好みの塩が選択出来るようになる。また競争原理が働き、安くて品質の良い塩が出回るために消費者にとっては大変歓迎すべきものである」と書き立てのです

 

   たしかに塩の自由化になると同時に、塩事業への異業種からの参入が目立ち、独創的な製造方法の自然塩、天然塩が沢山出回るようになりました
  また町おこしや村おこしのために、塩を特産品として売り出そうとする市町村も数多く現れ、その地名をつけた自然塩が日本各地に続々と誕生したのです。そして塩の輸入を扱う業者も星の数ほどあらわれ、その結果、現在市場に流通している家庭向けの塩が
2000種にも及んだのでした

  それはまるで自然塩や天然塩がお金を産む魔法の粉と錯覚しているが如く、猫も杓子もまた馬鹿のひとつ覚えみたいに
自然塩、天然塩の狂乱乱舞の世界だったのです
  塩の自由化で業務用塩の値段は確かに大幅に下がり、食品メーカーなどは自由化の恩恵を十分に受けました
  けれども家庭用塩は安全・安心が新規参入者のために逆に不透明になり、また値段も塩事業センター塩の百倍近くもする塩が、平気で市場を闊歩しているのが現状です


   ではこの自然塩(天然塩)とは何なのでしょうか。「定義は何か」を調べるために、百科事典などを紐解いても、造語ですので何も出て来ないのが当たり前のことです
  代わりに自然や天然を広辞苑で調べてみますと「人の手が加わらないこと」とあります
  この定義を踏まえて考えてみますと、太陽と風の力で出来た天日塩、岩塩層から採掘してから粉砕した岩塩、それらを何も加工しない塩を自然塩と呼ぶことが出来るのではないでしょうか

  けれど日本の塩の世界で使われる自然塩や天然塩は違う使い方をしています
  塩についての知識の無い人や、一部の学者や医者そして自然塩業者などは、塩事業センター
(JT)が販売している旧専売塩である食塩、食卓塩、クッキングソルトなどを化学塩とか精製塩と呼んで、蔑み批判したのです
  逆に、塩事業センターが販売している塩やイオン交換膜を利用した塩以外なら何でも自然塩とか天然塩とか自然海塩と呼んで称讃しました
  人の手や加工が十分加わっていても自然塩、天然塩ですので疑問はありますが、「自然塩を究極の加工塩」と明快な説明をする人もいます。塩では「自然は自然にあらず」と思えばよいのでしょう

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